第32章 火の棒と大地の金貨 4
それからしばらくしたあと、唐突に花京院は口を開いた。
「でもそれなら、恋人が死んだとは限らないのでは?恋人がいつかきっと帰ってくると言う祈りの歌かもしれないですよ。」
彼は変わらず海を眺めている。
彼らしい優しい答えに私は思わず顔が緩んだ。
「それもすごく素敵ね。でも花京院、あなた青いバラの花言葉知ってる?」
「花言葉ですか?」
私は自分に言い聞かせるように言った。
「青いバラの花言葉は“存在しないもの”“不可能”。砂漠に咲く青いバラは、存在しないものを表しているのよ。」
歌の中で恋人が存在しないものであるのと同じように、
私の恋も存在しないものにするって誓ったんだ。
初めての恋、だったんだけどな。
夜に考え事をするのは苦手だ。
ちょっとしたことで、泣きそうになってしまう。
私は花京院に顔を見られないように、空を見上げた。
街の明かりがないせいか、いつもより鮮明に輝く星天に私はますます泣きそうになった。