第32章 火の棒と大地の金貨 4
「昨日の晩、この歌を思い出したのよ。」
潮騒の私の心を落ち着かせるように響く。
私が花京院の方を向くと、彼もつられるように私の方を向いた。
確かに、昨日は左手に僕のハイエロファントを抱えていましたね、と花京院は笑った。
そうよ、"あなた"は花京院のことを指している。
でも、笑っていられるのはあなたがこの歌の本当の意味を知らないからよ。
私は深呼吸して、花京院に言った。
「ねえ、この歌の青いバラって一体何を意味していると思う?」
「バラの意味、ですか?」
最初はにこやかだった花京院も、私の真剣な表情を見て押し黙る。
「そうですね…」
と、彼は顎に手を当て少し考え、静かに答えた。
「恋の歌のようですから、青いバラはプレゼントよような気がします。恋人に送る特別な花を探しているのではないでしょうか?」
「そっか。」
相変わらずロマンチストね。
「この歌が、恋の歌というのは半分正解よ。でも青いバラは恋人への贈り物ではないわ。」
なんでこんな歌思い出したんだろう。
つくづく昨日の状況と重なって、胸がチクリと痛んだ。
「青いバラは亡くなった恋人の魂のことを指しているのよ。」
私がそう言うと、花京院は目を丸くして私の方を見た。歌詞の内容が予想外だったらしい。
私は彼に構うことなく話を続けた。
「恋の歌ではあるんだけど、戦地へ行って帰らなった恋人への歌なのよ。“砂漠のバラ”は遠いところへ行ってしまった彼の魂。左手で抱きしめている“あなた”は婚約の指輪のこと。歌の中には一言も悲しい単語がないのに、切ない気持ちになるのはそれが理由よ。」
彼は私から海へと視線を移した。
横顔から表情は読み取れないが、少なくとも私の答えに納得していないことはわかった。