第27章 黄の節制 1
「花京院、どうしたの?」
「アンナさん、お一人ですか?」
部屋に私しかいないことを察すると、花京院は少し驚いた顔で尋ねた。
「お一人様よ。アンちゃんは承太郎と買い出しに行ったから。そう言う花京院は?」
「僕も、どうやら置いていかれてしまったようでして。」
そう言うと花京院は苦笑いした。
と言うことは、アンちゃんはデートに成功したわけか。やるなぁ、最近の若い子は。
「アンナさん、大丈夫ですか?」
「え?大丈夫よ。どうして?」
「いえ、大丈夫ならいいです。」
花京院はまだ心配そうにこちらを見ている。
正直、まださっきの夢を引きずっていて気分は悪い。とは言え、眠ったおかげで体が元気になったことも確かだ。
「ね、せっかくだしこれから買い物行かない?置いてきぼり同士でさ。」
「買い物、ですか?」
花京院は唐突なお願いに驚いた顔をする。
こんな良いタイミングに部屋に来てくれたのも何かの縁ね。花京院には悪いけど、少し付き合ってもらおう。
「そうよ。どうせ出発は明日なんだし、承太郎たちを待ってるだけじゃ退屈でしょ?さ、行きましょ!」
そう言うと、私は花京院の手を引っ張って歩きだした。
「え、あ…」
慌てる花京院をよそに私は部屋を出て、ホテルのエレベーターを降り海岸へと向かった。
「気晴らしに甘いものでも食べたい。アイスクリームなんかどう?」
話しかけるが、花京院から返事はない。
「花京院?」
「すみません。アンナさん、その、そろそろ手を離してもらえますか?」
「あ、ごめん。」
来るときに強引に手を引っ張ってそのまま歩いちゃってたんだ。
私は慌てて手を離す。
「それにしても、観光客が多いところですね。」
花京院は誤魔化すように話題を変えた。私もあえてそれに乗る。
「ま、なんたって観光大国ですからね。」
花京院はくすっと笑った。無防備なその笑顔に少し胸が高鳴る。
「では、アイスを探しにいきましょうか。人の多いところとは言え、安全とは言えませんから。」
それから、出店を探して砂浜を二人で歩いた。
しばらく歩くと、少し古い店が見えてきた。看板には大きくアイスの絵が書いてある。
店までいくと気前の良さそうな店員が私たちに声をかけてきた。