第12章 【明智光秀】愛、故の戯れ②【R18】
「俺は、任務であろうと好いてもいない女に口づけなどしない」
「えっ?」
不敵な笑みで桜姫を見据えた光秀はグイッと彼女を引き寄せた。
宿の外に出ると、見知った武将たちが皆揃っていて街の中は何事かと大騒ぎになっていた。秀吉の計らいで佐助は春日山城に戻っていったと聞き、桜姫もほっと胸を撫で下ろす。後で手紙でも書こうと思いながら秀吉に礼をした。
結局、光秀の馬に乗せられ安土へ帰還することとなってしまった桜姫。
彼の馬に乗せてもらうのは実は初めてで、いつも以上に緊張する。
「肩の力を抜け、馬が落ち着かないだろう」
「……はい。あのっ……光秀さん、さっきの話、本当ですか?」
「何の話だ?」
「……その、口づけ……」
聞きたくても聞けないのはそれとなく恥ずかしさがあるからだ。
光秀との口づけを思い出して身体を熱くしてしまう。
「さぁ、覚えてないな」
またはぐらかされたと思いながらも、色々と考え事をしているとあっという間に安土城へと戻ってきてしまった。城の表玄関に着くと、そこには信長が仁王立ちで武将たちを出迎える。恭しく頭を下げていく彼らに混ざり、居たたまれない気持ちの桜姫は絶対に怒られると思い、身体を強張らせていた。
「戻ったか」
「ただいま戻りました」
「ご苦労だった」
信長と秀吉で交わされている挨拶を横目にそっと信長の脇を通り抜ける。
「桜姫っ」
信長に声を掛けられて桜姫は身体をビクッとさせた。その肩を光秀がそっと抱き寄せる。
「光秀との逢瀬は楽しめたか?」
信長からの言葉に目を見開いた桜姫。
咎められるどころか、どこか楽しげな表情を浮かべている信長に、軽く会釈をした桜姫は、光秀と共に城の中へ入って行った。
「信長様のご配慮、ありがたくちょうだいしたします。光秀に代わって俺からも礼をさせてください」
「礼には及ばん。俺から光秀への心づけだ」