第12章 【明智光秀】愛、故の戯れ②【R18】
「光秀さん……」
未練を残したくないから、決意を揺るがせたくないから、彼には何も告げずに安土を出たはずだった。しかし目の前に現れた彼を見て、未練も決心も思い描いていたものとは違う道を走って行ってしまう。
「なぜ、安土を出た?」
「……あなたに幸せになってもらいたくて…でも…そんな光秀さんを見ているのが私には……」
離れたくない……。
片思いでも我がままでもいい……。
桜姫が口を開こうとした時、光秀の唇が彼女の唇を塞いだ。
突然の口づけに動揺を隠せない桜姫。
甘く熱い唇が離れがたくも離される。
「お前を在るべき場所へ帰すわけにはいかない」
もう一度、桜姫の唇へ軽く口づけが送られた。
「信長様のためですか?」
しっかりと見つめられる瞳に囚われたのは彼女か彼か……。
光秀は桜姫の問いかけに答えないままニヤリと笑う。
「小娘には教えん」
「……光秀さん、意地悪しないでください」
そう呟いたた桜姫にもう一度口づけが落とされた。頬を赤く染めた桜姫ではあるが、光秀の真意が分からない。
「帰るぞ」
「……でも」
桜姫は、光秀の縁談の事、一緒に来ていた佐助の事などを考えて足を止めた。
自分に帰る場所などあるのだろうか?
光秀への想いをどうすればよいのだろうか?
先ほどの口づけは一体どういった意味なのだろうか?
光秀ならば、自分の任務遂行のためならばどんなことでもするだろう。桜姫を連れ戻すことが信長からの命であれば、先ほどの口づけも作戦の一部かも知れない。
進みあぐねている桜姫に光秀は手を差し出した。