第11章 【明智光秀】愛、故の戯れ①
「お前、これでいいのか?」
「何がだ」
「桜姫の事に決まってる」
秀吉は光秀から手を離し、その手に握られていた腕飾りを指さす。
確かに彼女に買ったものである。
腕飾りを握りしめた三秀は、自分の想いを考えていた。その時、三成があっと声をあげ、今度は彼に視線が集まる。
「……これは、内緒と言われたのですが……」
「何?なんもでいいから思い出したこと全部言って」
家康に促されて三成が言いにくそうに口を開いた。
「実は光秀様の事をお慕い申していると……」
「それで?」
「私も、光秀様の事を尊敬しておりますと言いました」
「そういう事じゃない」
そんな会話のやり取りをしている家康と三成を横目に、秀吉が光秀にもう一度問いかける。
「本当にいいのか?」
魂のこもった物言いに光秀は目を見開く。
「しかし、もう……」
「分からねぇだろ、まだ間に合うかもしれねぇんだ。お前の気持ちはそんなもんなのか」
秀吉の眼を見据えた光秀は、その瞳の色を変えスッと片手をあげる。
庭先に突如現れた光秀の家臣は、事の次第を把握しすぐさま城を後にした。
「信長様の事は任せておけ」
ニヤリと笑みを浮かべた秀吉が光秀の肩を拳で叩くと、何も言わずに光秀はその場を去っていく。今度は誰も引き留める者はいなかった。
愛する者の元へと向かう彼を止める者はここにはいない。
光秀は桜姫を探すため、自身の一番の駿馬を走らせた。