第11章 【明智光秀】愛、故の戯れ①
旅の夫婦を装った桜姫と佐助は、本能寺へ向かうべく馬での移動をしていた。馬上の佐助に掴まり桜姫は安土での思い出話を聞かせる。
「それで、光秀さんはね。お膳の物を全部混ぜて食べるの、いつも政宗さんや秀吉さんに文句を言われるんだけど、何を食べても一緒だからって!だから、リゾットとかチャーハンとか作ってあげたら喜ぶかなって思ったの」
楽しそうに話す桜姫の話を佐助はニコリと笑いながら聞いていた。
「あっ、でも家康さんが唐辛子をたくさんまぜているのを見て嫌な顔をしてたのも光秀さんだったよ。唐辛子は苦手なのかな?聞きそびれてたなぁ…」
「桜姫さん、さっきから光秀さんの話ばかりだね。よほど魅力的な武将なんだろうね」
佐助の言葉に桜姫はハッとした顔をして口をつぐんだ。
ついつい彼の事ばかり思いだしてしまって、聞いてもらえることが嬉しかった。もう二度と会うはずのない人に料理を作ろうなんて考えていた自分を恥ずかしくも思う。
でも……彼を忘れたくない。
そう思っていた。
桜姫が安土を発ってからまださほど時間が経っていない。家臣たちに彼女の向かった先を探らせつつ、光秀自身も彼女を探した。北か南か……海か山か……一人で向かったのだろうか?おそらくあの忍びと一緒だろうと考えを巡らせる。
川沿いの道を駈け抜けていた時、政宗の馬が背後に迫ってきた。
「光秀、本能寺だ。三成が桜姫から数日前に聞いていた事を思い出したらしい」
政宗にそれを聞いた光秀は、即座に馬の向きを変えて本能寺方面へと走り出す。
……決して逃しはしない。
これほどまでに執着するなんて思っていなかった。自分自身の心を変えさせたのは彼女だ。彼女の存在が今までの自分の生き方や考え方を変えさせた。
しかし、今の自分には彼女の存在が不可欠である……。
ただの小娘だと思っていたのに、こんなにも好きになるとは……。
……桜姫。
その名を呼び、腕の中に閉じ込めてしまいたいと何度も考えた。
俺だけのものだと示したいと思ってしまうのは贅沢なのだろうか。