第11章 【明智光秀】愛、故の戯れ①
夜になり、部屋の天井の一角がカタリと音を立てる。見慣れた顔がこちらを覗き込んできて、顔色の優れない桜姫を見て首を傾げた。
「桜姫さん、どうかした?」
佐助の問いかけにハッと我に返った桜姫は、今日一日何をして過ごしていたのかすら思い出せない。おやつに誘いに来た政宗の言葉も、夕餉に誘いに来た秀吉の声も届いていなかった。
佐助からは10日後、次のワームホールが出現するという情報が告げられて、桜姫の心は揺らいだ。
この時代に来て、光秀に恋をした。彼の言葉一つ一つが心に刻まれていて、片思いだと分かっていても大切にしたいと思っていて、叶わぬ恋だとしても彼の傍にいられることが幸せだと思っていた。
でも……
「私、現代に帰る」
愁いを帯びたその言葉に、佐助も一瞬戸惑ったが桜姫の決意を感じて、数日後にこっそり安土を出る約束を取り付けた。
あと数日か……。
なにかポッカリと穴が開いてしまった気持ちが桜姫を支配する。
心ここにあらずといった彼女の様子に他の武将たちも心配が尽きない。桜姫に直接聞いたわけではないが彼女は光秀の事を想っていて、信長からの肥前の姫君との縁談話が出てから様子がおかしい事を分からないはずがなかった。
当の本人が姿を現さないので、縁談がどうなるのか光秀の気持ちがどうなのか誰にもわからない。