第11章 【明智光秀】愛、故の戯れ①
翌日、この時代の勉強を三成に教えてもらう事が日課になっていた桜姫は秀吉の御殿の彼の部屋へと向かう。貸してもらった本を抱えて部屋に入れば、眼鏡をかけて読書をしている三成がいた。
「おはようございます」
声を掛けても返事がないのはいつもの事で、机の前まで行って持ってきた本をそこに乗せると顔がこちらへ向いてくる。
「桜姫様、おはようございます」
そうしていつもの様に始まった勉強会。何か知りたいことはあるかと問われて桜姫は思わずこの時代の婚姻について聞いてみた。
「そうですねぇ、大名同士のつながりを強めたり。時によっては人質の様な意味合いがあったり、あまり歓迎はしませんが諜報の役割を担ってお輿入れなさる姫様もいらっしゃいますね」
「好きな人同士では結婚……夫婦にならないの?」
「私たち武将は、戦にかける思いが強い輩が多いものです。なかなか愛しい方と出会う機会も少ないのでしょう。とはいえ、私自身も経験があるものではないので、あまり良いお答えが出来ずにすみません」
また、新しい知識を手に入れたら教えてくれると言う三成は、いつも大真面目に桜姫の話を聞いてくれる。少し鈍いところもあるので光秀の恋バナなどもしてしまうのだが、おそらく彼は気づいていない。
桜姫は小さくため息をついて、少し難しい書物に目を落とした。
正室、側室、妾……現代では考えられないような関係がこの時代は当たり前で、恋愛結婚なんて夢のまた夢のようだ。恋という考え方がこの時代にあるのか不明であるが、一つ言える事実は、光秀は信長様の為、自分自身のためにどこかのお姫様と結婚することが重要であるという事であった。
桜姫はまたひとつ大きなため息をつく。
「桜姫様、顔色が優れないようですが」
「うん、ちょっと疲れちゃったみたい」
「では、今日はこのくらいにして終りにいたしましょう。お城までお送りします」
三成に付き添われて城の自室まで帰った桜姫は、そのまま部屋で何も考える事ができずにぼぅっと日を過ごした。