第11章 【明智光秀】愛、故の戯れ①
桜姫が広間に入れば、信長と光秀以外の皆は集まっていてお茶の時間が始まった。
歓談しながら、お茶を飲む楽しい時間は桜姫も大好きな時間で、忙しい武将たちも彼女を構いたい一心で仕事を調整して集まっている。
しばらくして、信長が広間へやってくると、皆頭を下げて彼を出迎えた。上座へ腰を下ろした信長にお茶と茶菓子が振る舞われれば、再び楽しい時間が始まる。
「光秀はどうした?」
「えっ?御館様もご存じないので?奴に何か御用ですか?探しに行ってまいります」
秀吉は怒りをあらわにしながら、尋ねた。てっきり信長の命で出かけているのかと思えばまた自分勝手な行動なのかと頭を悩ませる。
「ここに来る前に廊下ですれ違いましたよ」
桜姫に言われて、秀吉が立ち上がった。光秀を探しに行くのだろう。
しかし、信長に急ぎの用ではないからと止められて秀吉は再び席に着いた。お茶を飲み干し何やら小言を言っている秀吉にお茶のおかわりを注ぎながら桜姫は苦笑いを浮かべる。
先ほど、もう少し強引に誘ってみればよかったのだろうか?
そうすれば自分ももっと楽しかったかもしれないなどと考えていると、信長が突然話しを始めた。
「光秀に縁談の話が湧いてな」
桜姫が湯呑を落としそうになり、信長の眼がキラリと光る。家康の視線が彼女の手元に向けば、ほんのり震えているようにも見えたが、話は続けられた。
聞けば遠く肥前の姫君だと言う話。もちろん織田との繋がりを持ちたいと言う政略的な意味合いが強いのであるが、どこで噂を聞き付けたのか、嘘か真か、先の姫君がぜひとも光秀との婚姻をと願い出ているらしい。
「俺は秀吉を薦めたのだがな」
「おっ……俺ですか?」
さすがの秀吉も驚いた声をあげる。
まるで酒でも煽るようにお茶を飲む信長はなんとも楽しそうだ。先ほどから三成以外の武将たちは桜姫の顔色を窺ったり、どうしたものかと焦る様子が見えた。