第9章 【明智光秀】待人来る①
しばらくの間、桜姫の唇を堪能した光秀は桜姫を抱きしめていた腕を離すと彼女と共に立ち上がる。
「少し、散歩でも行くか」
まだ日が高い、今日は安土でゆっくりできるはずなので桜姫を外に誘ってやった。余り遠くへ逢瀬に出ることはできない自分にイラつくこともあるが桜姫はそれを嫌がる様子もわがままを言う事もない。己の仕事の話をしない光秀にも何も言わずに付いてきてくれる。
手をつなぐわけでもなく、微笑みあいながら散策するわけでもなく、隣り合って程よい距離を保ちながらただただ城の周りをゆっくりと歩いていく2人。
天主からその様子を見ていた信長は、隣に立つ秀吉にお問いかけた。
「あれは、何をしている?」
「光秀なりの逢瀬かと……」
「あれで桜姫は満足なのか?」
信長の問いかけに秀吉も返事をしかねるようで、苦笑いを浮かべる。何度か……否、週に1度は桜姫に光秀で本当に良いのかと尋ねている秀吉。返事はいつも決まっていて、桜姫の愛は本物以外の何ものでもなかった。
考えていることがほとんど分からない光秀の気持ちは正直言って分からないが、同じ信長の忠臣としては彼の思いも本当であると信じたい。秀吉は日々複雑な思いで彼らを見守っていた。