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【イケメン戦国】天下の姫君【短編集】

第1章 【伊達政宗】音の在処①


翌日、朝分の傷薬を運びに来た家康が桜姫の部屋へ入ると、彼女の隣で畳にじかに横たわっている政宗が寝息を立てていた。

「まったく……」

呆れてため息をついた家康がいつもの手筈で治療を始めようと彼女の掛布を捲ると、その指先がピクリと動く様が見て取れた。

「桜姫?」

手を取り彼女の名を呼ぶ。褥の向こうに横たわる政宗を呼び起こした。
家康の声に飛び起きた政宗は頬に付いた畳の跡も気にせずに桜姫に声を掛ける。
政宗が掴んだ桜姫の左手がまたピクリと反応した。

「桜姫っ!桜姫!」

綴じられていた瞳がゆっくりと開かれる。まるで追い詰めた武将に刀を向けた時のように胸が高鳴っていた。開かれた桜姫の瞳と政宗の瞳が重なると桜姫の唇が小さく弧を描き微笑む。

「……桜姫」

何度も彼女の名を囁きながら政宗は横たわる桜姫の身体を抱きしめた。
しかし、政宗は不意に不安を過らせる。抱きしめていた身体を離し、しっかりと目覚めたばかりの桜姫を見下ろすと、彼女を挟んで反対に座っていた家康に視線を向けた。

「……家康」
「政宗さん、桜姫の身体、ゆっくり起こしてもらえます」

彼女の背中に半身を入れてゆっくりと桜姫の身体を起こしてやる。
ずっと寝ていたせいか上手く力が入らない様で、ほとんど政宗の身体に身を預けながら桜姫はゆっくり息を吐いた。

「白湯……飲める?」

コクリと頷いた桜姫は家康から渡された椀を受け取ろうと手を伸ばすが、微かな震えを政宗は見逃さない。代わりに受け取り、彼女の口へとゆっくり近づけた。
コクっと喉を通過した白湯を確認した家康は安堵の表情を見せてくれると思っていたが、その表情は硬いまま動かない。
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