第5章 【石田三成】鈴音と共に…①
迷子事件から数日後、遠征から帰還した秀吉の隊が城下から戻ってくるのを信長と共に天守から眺めていた桜姫。
「信長様、皆が戻ってきました」
「皆でなく、三成であろう?」
意地悪そうに口角をあげる信長に頬を膨らませながらも頬を染め反論してみたが、図星をつかれているためそんなに強くは言い放てないでいると、ポンと頭を撫でられる。
「迎えに行ってやれ、皆が喜ぶ」
「はいっ」
信長に命じられて、急いで階下へ向かうが、天守から下る階段は勾配がきついので慎重に下りなければ真っ逆さまになる。
何度か…否、何度もいろんな人に命を救われていたので、今日は逸る気持ちを抑えながら慎重に降りていった。
5日ぶりの三成くん……と心で唱えながら、城門へ急いだ。
桜姫が城門へ着くのと、秀吉、三成の2人がそれをくぐってくるのがほぼ同時になり、すれ違いざまに馬上から甘い視線を送ってくれた三成を笑顔で出迎える。
無事に戻ってきてくれたようで安心した。
馬から降りてきた三成に一番に声を掛ける。
「おかえりなさい」
とほほ笑めば、温かく抱きしめられた。
「ただいま戻りました。いい子にしていましたか?」
三成に子ども扱いされるのは悪くない。
信長の元へ報告に行くと言う秀吉と三成を一度見送り、桜姫は御殿で待つことにした。
彼の無事を確認し安心した桜姫は部屋に遊びに来ていた猫さんを抱き、主の帰りを待つうちにうとうととうたた寝をうつ。
いつの間にか本格的に寝てしまった様で、胸元で丸まっていた猫さんが動いたのをきっかけに桜姫は目を覚ました。夕日がきれいに部屋の中を照らし、大きく伸びをした桜姫に優しい声が降り注いだ。
「おはようございます」
その声に振り返り満面の笑みを浮かべた桜姫は声の主である三成に飛びついた。
「おかえりなさいっ」
「二度目ですよ」
「何回でも言うよ。おかえりって」
三成も嬉しそうにして桜姫をしっかり抱きかかえる。そのぬくもりを互いに感じ合いながら、どちらからともなく唇を合わせた。
「いつ戻ってきたの?起こしてくれたらよかったのに」
「とても良く寝ていましたので」