第5章 【石田三成】鈴音と共に…①
「桜姫様」
もう一度名を呼ぶと、やっと身体が反応したかのようにピクリと動く。伏せられていた目がゆっくり開き、自然と視線が絡みあった。
「……みつ…なり……くん?」
そっと紡がれた自分の名前に優しく頷いた三成は、桜姫をしっかりと抱え直して安全な場所へ下りると、そこへ腰かける。
「桜姫様、ご無事でしたか?」
三成にギュッとしがみついた桜姫は小さく頷いて身体を震わせた。
安心させるように桜姫を抱きしめて髪を撫でる三成に彼女は今日の出来事を話す。
政宗の部下たちに差し入れをしようと菓子を持って出たものの、森の中で迷子になり、果てには烏に襲われそうになり、菓子と草履を放り出してこの木の根元に逃げ込んだらしい。どこにいるかも分からないし、三成が迎えに来てくれるのを待っていたのだと言う。
「まったく……私を困らせるのは構いませんが、心配させないでください」
三成は桜姫にひとつ口づけを落として彼女を安心させた。
「ごめんなさい……でも、ありがとっ」
桜姫は笑顔を見せて、三成にまた抱き付くとホッとした様子をみせている。
「皆さんも心配しています。帰りましょう」
「歩けるよ」
「草履もないのに歩かせるわけにはいきませんよ」
確かに、草履はあるが壊れているし、実は足の裏にも多少の痛みがあった桜姫。ここは大人しく三成に抱えられて城へ戻ることにした。
桜姫が見つかったことが捜索していた皆に知らされ安土城は安堵に包まれる。