第5章 【石田三成】鈴音と共に…①
秀吉たちに捜索の援護を頼み三成は桜姫の行きそうなところを探し始めた。
城下での捜索と聞き込みは政宗たちが行ってくれている。野原や川辺の方には人影は見えなかったが、もっと奥へと入り込んでしまったのだろうか?
桜姫は余り方向感覚が良い方ではない。つまり方向音痴なのである。真っ直ぐ行って帰って来ると言って出掛けた城下で全く違う道を使って帰ってきたり、城内の中庭で待ち合わせたのに、裏口の方へ向かっていたりする事さえあった。
「ただの迷子ならいいのですが……」
三成はそう呟きながら城の裏手の森の方を探しに行く。暗くなってしまえば野犬や他の動物に襲われたり、足元を見誤って怪我をしたりする恐れもある。日が沈む前には見つけなくてはならなかった。もっと安全な所で見つかってくれればありがたいと思いつつも足は森の奥へと進んでいる。
獣道とまでは行かないがあまり良い足場ではない道を歩いていくが、まだ先へ進めば政宗の部下たちが見守っている森のはずれに出るはずだ。
そちらに桜姫が行ったのであればむしろすでに城に戻っていてもいいはず……三成は逆方向へ向かい始めると見覚えのある草履を発見してしまった。
鼻緒が切れた桜姫の草履が脱ぎ捨てられている。自ら脱いだものか脱げてしまったものか、脱がされたものなのか、それを拾い上げた三成は大声で彼女の名を叫ぶ。
「桜姫さまっ」
検討もつかないままに三成の足は速まり、それは突然に止まった。
「……桜姫様?」
大きな木の根元、地上に出た根が大きく絡まり合ったその隙間に見覚えのある布が見える。
あれは桜姫様の着物の袖??と三成は体温が一気に下がった気がした。息を呑み一目散にそこへ駆け寄る。
三成は木の根に足をかけ、桜姫の着物に目を向けた。木の根の間に上手く入り込んだ身体にそっと触れれば、身体は温かく呼吸しているのが分かる。
怪我は?身体は?三成は桜姫の身体を抱き上げて彼女の名前を呼んだ。
草履は履いておらず裸足の足は薄汚れていたが、怪我をしている様子はない。着物が乱れている感じもなければ、体温低下も見られず安心した。