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【イケメン戦国】天下の姫君【短編集】

第5章 【石田三成】鈴音と共に…①


それから数刻……酉の刻を迎えようとしている頃、三成の部屋を訪れた秀吉は部屋の中をひとつ見回してから、今日も真剣に戦術書を読みふけっている彼に声を掛けた。

「三成?」

名前を呼ぶが顔を上げるはずはないと思って、近くまで寄って彼の持っている本を取り上げる。

「三成っ」

手元から持ち上げられた本と共に顔が上に上がり、その先に見えた自分の上司の顔にハッとした。

「秀吉様、すみません。つい夢中になってしまって……」
「いつものことだ、構わないが……お前、桜姫は来ていないのか?」

秀吉に言われて三成は首をかしげると、自分の部屋の中を見回す。
何を隠そう三成と桜姫は恋仲であり、一緒に過ごすことが多いのだ。
だから、今日もてっきりここに桜姫が来ていると思っていた秀吉だったが、どうやらいないらしい。

「あぁ、そう言えば城内の縁側で読書をしていましたよ」

思い出したことに笑顔を見せて三成がそう答えると、秀吉は大きなため息をついた。

「お前、それいつの話だ?」
「そんなに前ではないと思いますが……」
「もう酉の刻だぞ。桜姫が縁側にいたのは昼前の話だろ」

彼女を縁側で見たのは昼餉を食べる前だったことは秀吉も知っていた。
その後、姿を見なかったのでここに来たと言うのに、三成はずっと本を読んでいたに違いない。
外を見れば確かに日が沈もうとしているように見える。こんな時刻になっても彼女が戻らないことは今までなかった。遅くなるときは必ず言伝があったし、誰かと一緒にいるはずだ。
しかし今日は言伝もないし、置手紙もない。秀吉が言うには他の武将たちもそれぞれ仕事をしていたから桜姫とどこかへ出かけた様子はなさそうだという事だった。

「桜姫様……秀吉様、ちょっと探しに行ってもよろしいでしょうか?」

三成は秀吉に一言断りを入れると、急いで部屋を出て彼女を探しに出る。
何人かの番兵達に聞いてみたところ昼過ぎに城外に出かけた姿を見た者がいたが、戻ってきたのを見た者はいなかった。三成の不安が一気に募る。
どこに行ったか分からなければ、この時間に一人で探すのは難しいし、桜姫にもしものことがあれば……と考えずにはいられない。
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