第3章 【徳川家康】揃い飾り①
宴の当日。
桜姫の支度は着々と進められていた。あくまでも主役は家康であるのだが、御殿の女中たちも久々の女性の支度に息巻いている。
いつもよりもしっかりとされた化粧、綺麗に結われた髪、香の焚かれた打掛。仕上がった桜姫はいつも以上に、それ以上に美しくなって見えた。
それを見た家康は素直に綺麗と思ったにもかかわらず、次の瞬間には眉間にしわを寄せて桜姫の髪を撫でた。
「……似合ってなかった?」
心配そうに顔を上げた桜姫は家康の胸に飾られている飾りを見て嬉しさに笑みを浮かべる。家康に軽く抱きとめられると再び髪を撫でられた。
「……似合い過ぎて……心配…あんた、かわいすぎ」
家康の顔は見えないがきっと真っ赤になっているのだろうと思うと桜姫の顔もどんどん赤くなる。
今さらながら信長のいう事は聞かずに宴をサボらせてしまおうかとも思ったが、本人が行きたがっているためそうもいかなかった。
家康は腹を括って桜姫の手を引きながら城へと向かった。
打掛はいつも以上に熱く重い。地面を擦らないように持ち上げながら歩くのは至難の業だった。
「だから、言ったのに」
歩きにくそうにしている桜姫を見て家康がため息を吐く。歩くのが大変だから城で着替えをするように進言したのだが、御殿の皆にも見せたいからという理由で御殿で着替えを済ませた結果がこれだ。
「だって……」
「打掛だけ持ってあげる」
本来であれば脱ぎたくないし脱がせたくないのであるが、城に着く前に倒れられても困ってしまう。
内側に着ている着物も綺麗に着飾られておりそれだけで歩いても問題はなさそうなため家康は、打掛を桜姫から預かり城へ向かった。
広間へ着けば、すでに他の武将たちは揃っており着飾られた桜姫の登場に感嘆の声が漏れる。