第3章 【徳川家康】揃い飾り①
三成と共に無事桂木屋へ行くことのできた桜姫は、昨日約束した端布をお針子頭から受け取っていた。
主人に茶を出してもらい新しい羽織の布を薦められていた三成もずいぶんとくつろいでいる。
「三成くん、ありがとう」
端布を手に嬉しそうに駆け寄ってきた桜姫に主人も三成も笑みを浮かべていた。
「桜姫様、昨日の仕立ては如何でしたか?」
「はい、とても素敵な物をありがとうございました」
「そちらは?」
主人は桜姫の手にしている端布を見て不思議そうな顔をする。いつもならば反物で買って行くのに、今日は捨ててしまうような切れ端を大事そうに抱えているのだから。
「家康に素敵な着物を貰って嬉しかったので、お揃いで何かを作りたいと思ったんです。昨日、お針子頭の方に聞いたら同じ布が余っていると聞いて譲っていただきました」
「そういうことでしたか」
「あっ、家康には内緒にしてくださいね」
「もちろんです」
家康にばれないようにと主人が丁寧に端布を包んでくれて、三成と共に御殿へと向かった。家康のとの約束だからとしっかりと部屋の前まで送り届けてもらい一安心する。
端布なのであまり大きなものは作れないが、羽織に合う飾りか小物が作れればいいと考えながら裁縫道具を取り出した。
それから数日、家康のいない隙を狙って桜姫は自分の髪飾りと家康の胸飾りを作った。明日はいよいよ宴の当日である。
夜になり、城から戻ってきた家康に作った飾りを見せる桜姫。
「あんたが作ったの?」
「うん。家康に貰った着物すごく素敵だったでしょ。あれを着て宴に出るなら、何かお揃いにしたかったの」
なんて可愛い生き物なんだと桜姫をまじまじと見つめてしまう。嬉しそうに自分の髪にも飾りを当ててみたりして本当に楽しそうだ。
家康はそんな桜姫を自分の膝の上に抱きかかえる。
「明日は俺の傍から離れないでよ」
耳の後ろから首筋に掛けて口づけを落としながら、そう言い聞かせた。そうは言っても自由な姫様だ。見張っていないと何をしでかすか分からない。
すました顔をしている家康も内心は落ち着かないでいる此の頃であった。