第3章 【徳川家康】揃い飾り①
「さすがだな、家康」
「ありがとうございます」
信長に仕立てを褒められ、家康は上座へ出向いた。信長の隣に桜姫を座らせ、その隣に家康が座る。
「お前はここで座っていればよい。大名たちが挙って挨拶に来るが、適当に笑っていろ」
「……適当にって、難しいですね」
しかしきっと小難しい話をされたところで桜姫には分からないし、昨日家康から聞かされた話では、織田家縁の姫である桜姫に婚姻を求めてくる輩もいるかもしれないという事だった。
適当というのはとても難しい話である。
家康の方へ顔を向けてみるが、いつも通りの無表情で何も言ってくれる様子はなかった。
程なくして、諸大名たちも集まり宴が始まる。
予想通り信長や家康の元へ挨拶へ来る人の多さに桜姫は圧倒されていた。そのたびに自分の杯にも酒を注がれて、いつになっても酒が無くならないことに正直参ってしまう。
「無理しないで、飲めそうになかった俺の杯に移していいから」
桜姫の様子を見て家康がこっそり声を掛けてくれた。初めから桜姫の杯は他の武将たちの物よりも小さいものが用意されていたが、途切れることなく注がれる酒にほろ酔いで、隣にいる家康がそれに気づかないはずがない。自分の予備の杯を桜姫の方へ寄せておき、飲めない分の酒をそこへ入れさせてくれた。
それでもどんどん酔いは回ってくるもので、桜姫の頬は桃色に染まり目はトロンと落ちそうになっている。そして眠気も来てしまったのだろうか、時折頭をもたげてはビクッと身体を震わせていた。
そんな桜姫の様子を楽しそうに眺めている信長と光秀は更に酒を薦めようとしているようだ。家康は堪え切れなくなり桜姫を自分の身体に凭れさせた。
「ちょっとしっかりして」
「……うん。だいじょうぶ」
大丈夫には見えない。クツクツと笑った信長が宴をお開きにすると言い放ち、家康に早く部屋に戻れと促してくれた。
こういう気遣いを時々されると、後で何を言われるのかとも思ってしまうが、今はありがたく言葉を貰っておくことにした。