第3章 【徳川家康】揃い飾り①
広間に着くと、桂木屋の主人と仕立てを担当しているお針子頭、番頭さんと数名の店子の姿がある。家康の登場に皆、頭を下げて彼を迎え入れた。
「家康様、お待たせいたしました。仕上がりました品をお届けに上がりました」
主人に促されてみれば、煌びやかな着物が数点並べられているのが見える。
家康の隣にいた桜姫もその光景に目を輝かせた。それを見た家康は満足げな笑みを浮かべて桜姫をそれらの前に導く。
「あんたのために作らせた。すぐに役立ちそうで良かった」
「家康……ありがとう」
手に取った打掛は、染めも刺繍も美しくまるでお姫様の着物のようだと思った。宴の着物を心配していた時のあの家康の様子はこれの事だったのかと納得する。
「桜姫様にはいつもご贔屓にしていただいております。私たちも精魂込めておつくりさせていただきました」
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
並べられた着物を見ながら、ふと桜姫が思い立ったかのように立ち上がり、顔見知りだったお針子頭の所へ歩み寄った。
「あのっ、打掛の反物の端布はありますか?着物でもいいんですけど」
桜姫の問いかけに微笑んだお針子頭は、いつもなら気さくに話をするのだが、今日は家康もいる手前、いつもよりよそよそしい感じが否めない。
「桜姫様…」
小声で呼ばれたので近づいてみると耳元へ口を寄せてきた。
「桜姫様より教えていただいた、余りや端布でぱっちわーくとやらをやってみたいと言うお針子が多くて、どの布も余りをきちんと保存しております」
嬉しそうにそう教えてくれた。
後で反物屋に取に行く約束をした桜姫は嬉しそうにお針子頭に礼を言って立ち上がる。
着物は反物で真っ直ぐに使用することが多い為あまり多く布が余るわけではないがそれでも残る部分はある。高級な布ほどもったいないと思っていた桜姫はお針子たちにパッチワークというものがあることを教えていたのだ。捨ててしまう良い布を使えるのだから、お針子たちも嬉しいのだろう。
おかげで余り布を分けてもらえそうだ。
「何?」
目ざとい家康が、お針子頭の元から戻ってきた桜姫に疑問の眼を向ける。
「何でもないよ」
とは言うものの、何でもないわけがないと疑われているのは容易に分かった。