第3章 【徳川家康】揃い飾り①
先の戦で武功をあげた家康のために宴が開かれることとなった。近隣諸国の大名も呼ばれるという事で……
「お前も参加しろ、桜姫」
の一言で、彼女の参加が決まってしまった。
あまり多くの人前に桜姫を晒したくなかった家康であったが、信長に逆らうわけにはいかず、しぶしぶ承諾したという結果だ。
「織田家縁の姫だ。俺の隣で酌でもしていればよい」
涼しげな顔でそう言い切る信長は、少々悔しげな顔をしている家康を見て楽しんでいた。
二人の仲を認めていないわけでも邪魔をしたいわけでもないが、不愛想であまり表情を変えない家康を揶揄えるのは彼にとっての楽しみとなっていたのだ。
軍議でその話を聞いた後、御殿に戻ってきた家康と桜姫。
桜姫は初めて参加する宴を楽しみにしているようでそわそわしている様が手に取るように分かった。そんな彼女を見て小さくため息をついた家康であったが、間もなく来るであろう遣いの者達も喜ぶかもしれないと思い笑みを溢す。
「何かのためと思ってたんだけど、すぐに役に立ちそう……」
「んっ?何の話?」
先ほどまで機嫌が悪そうだった家康がほほ笑んだのが見えて、桜姫もほっとした様子だ。
「ねぇ家康。私、宴に参加するの初めてだけど、何か準備とかした方がいいかな?」
着物や装飾品など……宴という事はパーティーと同じと考えて、ドレス…?綺麗な着物の用意などが必要ではないかと考えたのである。
「あんたは、何も気にしなくていいよ」
家康は、自分の方へ桜姫を抱き寄せて、そっと頬へ口づけをした。
そんな彼に頬を赤くした桜姫は、抱かれている彼の手をギュッと掴む。甘い雰囲気になりかけた時、襖の外から女中が声を掛けてきた。
「失礼いたします、家康様。桂木様がおいでになりました」
桜姫を抱いていた手をそっと離し、もう一度頬に口づけをした家康は立ち上がり襖を開ける。
桂木とは最近桜姫が世話になっている反物屋の名前だ。
「広間に通して」
女中にそう告げて、部屋の中を少し整えると桜姫を連れ御殿の中にある広間へと向かった。