第16章 【伊達政宗】無自覚な心①
夕方になり、信長一行が城に戻った。
緊張しっぱなしだった桜姫も、馬から降りて荷物を抱えると一目散に政宗の所へ向かって行く。
良い反物が買えたのと、三成に美味しい甘味を食べさせてもらった。
おみやげに買って来たお団子を政宗と一緒に食べるのも楽しみだし、信長にもねぎらいの言葉を掛けてもらって上機嫌なのである。
「政宗~」
城にある彼の部屋に行くと、事務仕事をしていた政宗が出迎えてくれた。
ギュッと抱きしめられて、なんだか安心する。
政宗は、桜姫の肩から腕に自分の手を滑らせるとクスッと笑った。それに首をかしげたのは桜姫だ。
「ずいぶんと緊張したのか?腕が強張ってる」
政宗は桜姫を引き寄せて、自分の足の間に座らせると肩を揉み始める。政宗に肩もみをしてもらうなんて申し訳ないような、恥ずかしいような複雑な気持ちになった。
しかし、馬上でずっと緊張していた筋肉を解してもらえるのが心地よい。
「お前、俺の馬だとすぐ寝るのに、何で他の奴の馬上ではそんな緊張するんだ?」
「えっ?」
桜姫にはやはり自覚がなかった。
馬に乗るときはいつも緊張している自覚はあったし、もちろん政宗の馬に乗せてもらう時も緊張はしている。
「私、寝てる?」
「自覚なしか」
「今日、信長様にも同じようなこと言われた」
「だろうな」
大口で笑う政宗が桜姫の肩をポンポンと叩いて、肩もみの終わりを告げた。