第16章 【伊達政宗】無自覚な心①
実は、桜姫はこの高さが苦手なのだ。
馬が嫌いなわけではない、お世話をするのも楽しいのだが、馬の背に乗る時の高さと不安定さが未だに慣れず、馬に乗るたびに緊張していた。
「眠りこけて、振り落とされるなよ」
返事をする間もなく、政宗の声がかかったと同時に信長の馬が走り出す。
馬の首に掴まるべきか、信長にしがみ付くべきか悩んでいる間にも走る速さはどんどん上がっていった。
「しっかり掴まれ、落ちても拾ってやらんぞ」
「じゃあ、もっとゆっくり走ってください」
馬を走らせながら信長がフッと笑い、馬の腹を蹴る。桜姫は信長の着物をしっかり掴んだ。
「そろそろ馬にも慣れたらどうだ?」
少しだけ速度を緩めた信長が、桜姫の頭上で話を続ける。
慣れないものは慣れないのだ、仕方がないだろうと言った表情を見せて桜姫は信長を見上げた。
「政宗の馬に乗っている時はもう少し肩の力が抜けているように見えるが?」
「誰の馬でも一緒です」
「無自覚か……」
呆れた顔をした信長は、そのまま秀吉の前に出ると再び馬の速度を上げていく。叫び声をあげれば、また信長に何を言われるか分からないと思い桜姫は信長の胸元をグッと掴んだ。