第16章 【伊達政宗】無自覚な心①
数日後、政宗の馬に乗せてもらい川辺へ逢瀬に向かう。
やっぱり緊張はするものの、さすがに居眠りはしなかったことに桜姫はほっとしていたが、帰りの馬上では政宗に抱かれる形ですっかり眠ってしまっていた。出迎えてくれた秀吉が政宗から桜姫を一旦預かり受けて馬から降ろす。
「また寝ちまったのか?」
「あぁ、河原ではしゃいでたから疲れたんだろう」
政宗も次いで馬から降りると家臣に馬を任せて桜姫を秀吉から受け取った。
スヤスヤと眠る桜姫の顔を見てニヤリと笑った政宗は、彼女の部屋へ向かうと褥へそっと下ろし、緊急に招集された軍議へ向かう。
広間には皆集合しており、政宗も急いで自分の席へと付いた。
「桜姫は、どうした?」
「すみません、寝てしまって」
政宗の答えに、信長は一笑いすると脇息に身体を凭れさせる。
「あいつは、お前の馬の上で眠るのが好きなようだな」
「俺たちの馬の上では絶対に寝ないけどな」
信長に続いて秀吉も桜姫の眠り癖について言及した。やはり皆、同じことを思っていたらしい。政宗はその事実に笑いを零す。
「政宗様の馬上では安心しているのでしょうね」
「一番、危なっかしい乗り方してますけどね」
皆にいろいろ言われるものの、それが政宗には優越感にも感じられた。
自分に信頼を寄せてくれているようで、愛を感じる様で、それが嬉しく思う。