第16章 【伊達政宗】無自覚な心①
数日後、信長の命令で視察に同行することになった桜姫。
随行するのは秀吉と三成という事だった。政宗は不在の光秀の代わりに城での留守居番だ。一緒に行きたいのは山々だが信長の決定事項であるため仕方がない。
城門の前で政宗が桜姫の頭を撫でている。
「楽しんでこいよ。あそこの町は商業も盛んだって言うから、秀吉に反物の一つでも買ってもらえ」
「えっ?それは悪いよ。自分で買う」
「遠慮するな、一つくらいなら買ってやってもいいぞ」
少し離れたところから秀吉の声がした。
するとそこへ駆け寄ってきた三成がニコリとほほ笑む。
「桜姫様、あちらの町には珍しい書物を扱うお店もあるそうですよ」
「お前は、本の読み過ぎだ」
「桜姫、気をつけてな」
「政宗、今日は心配しすぎ」
クスッと笑った桜姫の頬に政宗が口づけする。
少しの間、会話を交わしていると、信長もやってきた。控えの者が用意した馬の所へ来ると桜姫に視線が向けられる。
「桜姫、俺の馬に乗っていくか?」
秀吉に声を掛けられて返事をすると、隣から信長の手が差し伸べられる。
「俺の馬に乗れ、一番安全だ」
「もっともだ……」
ニヤリと笑う政宗の顔を見て、やや呆れ顔の秀吉の横を通り過ぎ、信長の馬に乗せてもらった。
グイッと引き上げられて信長の腕に抱えられるようにして馬に乗る。一気に視線が高くなり視界が広がった。先ほどまで見上げていた政宗の顔を見下ろす形になって、ゆっくりと息を吐く。