第13章 【徳川家康】良薬口に苦し①
「では、桜姫様。今日はこのまま家康様の御殿でお過ごしになられますか?」
「俺は別に構わないよ。今日は登城する予定なかったから」
家康と一緒に過ごせるのは嬉しいが、城に残してきたやりかけの作業が気になってしまう。裁縫箱も片づけ途中だったし、戻りたい気持ちととどまりたい気持ちがせめぎ合っていた。
「家康?部屋の片づけだけしてきてもいい?針の数だけでもちゃんと確認してきたいから……」
「明日でもいいんじゃないの?」
「でも……家康と一緒にいられるのに、気になることがあると落ち着かないから……」
そんなかわいい顔をされては嫌とは言えなくなってしまう。
一旦桜姫を三成に任せて、数刻後に家康が城まで迎えに行くことで話がまとまった。
家康が城内にある桜姫の部屋を訪れると案の定、彼女は針子の仕事をしている。
「片づけるだけって言わなかった?」
家康に見つかりバツの悪そうな顔をした桜姫は、急いで片づけを済ませるとごめんなさいと素直に謝った。
「でも、暴れて運動してたわけじゃないし、大人しくしてたよ」
「そんなの屁理屈。針子の仕事は神経遣うんだから疲れるでしょ」
家康はポンポンと頭を撫でて桜姫の荷物を持ってやる。
城から御殿までの道のりは石段も多くそこを歩かせるのも気が引けたが、城内にいると見張っていられないし、安静にという言葉が通じなさそうなのでゆっくりと御殿への道を歩いた。
荷物を持っていない方の手でしっかりと桜姫と手を繋ぎ、日が傾き始める安土の空を眺める。
「喉の具合は?」
「う~ん……」
先ほどよりも痛みが出たと言えば、家康に怒られそうな気がしてなんとなくごまかした。
少し寒くなってきた道で、家康がそっと桜姫の肩を抱く。彼のぬくもりが伝わってきてホッとため息をついた。
家康の部屋では、いつものように薬の混じった独特の匂いがして、体調不良が増してきた桜姫には少し居辛さを感じさせる。
「はい、喉みせて。他に辛いところはない?」
家康に再び口を開いて見せると、桜姫は観念して少し怠さがあると白状した。