第13章 【徳川家康】良薬口に苦し①
数日後、御殿で薬の調整をしていた家康の元へ珍しく早い時間に桜姫がやってきた。針子の仕事は明るい時間の方がやりやすいからと、御殿に来るのは日が落ち始める頃が多い此の頃であったので、思いがけない来訪に家康も口をほころばせる。
しかし、それはすぐに眉間の皺を増やすものとなった。
桜姫の背後には三成がおり、城から一緒に来たという。どういうことかと尋ねれば、桜姫の様子がおかしいので、一刻も早く家康に診てもらう様にと秀吉に言われて来たらしい。
深いため息をついた家康は、桜姫の正面に座り話を聞き、背後から覗き込んでくる三成を邪魔者扱いしていた。
「そんなに、具合が悪いとかじゃないよ。ちょっと喉の奥がモヤモヤするって言うか、変な感じがするくらいだから……身体は元気だし……」
「のどがもやもや?」
何とも言えない言い回しに、家康はまたため息を吐く。痛いとか辛いとかではないのは良かったが、もやもやとは一体……。
「口開けて、何か大きな声で叫んだりとかした?」
家康に口の中を見せながら、そう問われて思わず顔を赤くしてしまった桜姫。大きな声をあげたりするようなことはしていないが、何故だか家康との情事を思い出してしまい赤面してしまう。
「桜姫さま、顔が赤いです。熱が出て来たのでは?」
三成に再び顔を覗き込まれて、更に恥ずかしさが増した。
覗いてきた三成の顔を押し離した家康は、もう一度、桜姫の口を覗き込む。
「しばらくそういう事してないでしょ。三成にそんな顔見せないでよ」
近づいてきた家康がそっと耳打ちすれば、再び顔の熱が上がってしまった。
何故、思っていたことがばれてしまったのだろうか……?
「少し喉が赤くなってるから、風邪のひき始めって感じかな」
「ほら、大したことないでしょ」
「大したことある。しばらくは仕事休んで大人しくしててね」
家康に言われて、シュンと肩を落とす桜姫。
別に熱もなければ、身体が怠いわけでもない、仕事ができない程体調不良というわけでもないのに、大人しくしていろと言うのは辛いものがある。