第13章 【徳川家康】良薬口に苦し①
早々に閨に用意された布団に寝かされた桜姫は、褥に潜りこみながら隣の部屋で仕事をする家康の姿を見て大人しくしている内に、眠ってしまう。
それを確認した家康は、そっと彼女に近づくと額に唇を落とした。
「まったく、無理しないでよ……」
夜も更けた頃、すっかり眠ってしまった桜姫が目を覚ます。隣の部屋では行燈の灯りの元で家康がまだ筆を動かしていた。彼の姿が見えてホッとしたのと同時に、乾いたのどの痛みをゴクリと喉を動かして感じる。
ゆっくりと起き上がり、枕元に置いてあった水を飲むと隣の部屋から家康が歩み寄ってきた。
「目が覚めた?ずいぶん寝てたね」
ニコリとほほ笑んだ家康に、頷いた桜姫はそっと抱きしめてくれた彼に甘えるように抱き付く。
「大丈夫?」
「うん、寝たらだいぶ楽になったけど、喉はちょっと痛いかも……」
そう答えると、家康は隣室の机の上から一包の薬袋を持ってきた。
「……薬……苦いから、嫌」
「そう言うと思った」
呆れ顔で、薬の用意を始める家康は、嫌とは言わせないと言った顔つきで桜姫の前にそれを差し出す。
真一文字に口を結んでいる桜姫に思わず吹き出してしまった家康は、隣の部屋からもう一つ何かを持ってきた。
「これ、政宗さんがお見舞いにって持ってきてくれたよ」
小皿に乗せられた可愛らしい甘味がとても美味しそうだ。政宗の手作りならば味は保証付きである。
つまり、薬を飲んだらこれを食べられるし、苦い薬の後に甘いものを食べれば少しはましだろうという事だろう。
「でも、甘味は美味しくいただきたいよ」
「薬飲まないなら、甘味は抜きだよ」
家康と桜姫の攻防が繰り広げられる。
「美味しい、やっぱり政宗の甘味は美味し過ぎる」
家康との攻防に負けて、薬を飲み干した桜姫は念願の政宗お手製甘味を口にしていた。
家康の薬は苦いけど、よく効く。
幸せそうな桜姫の顔を見ながら、明日は政宗の甘味がない状態で彼女にどうやって薬を飲ませようかと思案していたのだった。