第13章 【徳川家康】良薬口に苦し①
翌日も、夜な夜な作業をしていた桜姫。
夜の軍議が終わり、揃って歩いていた家康、秀吉、三成は、桜姫の部屋に明かりが付いていることを対の廊下から見つけた。
だいぶ長引いた軍議であったためすでに辺りは真っ暗で夜回りや寝ずの番以外は就寝しているものが多い時間だ。
「桜姫は、まだ起きてるのか?」
秀吉の言葉に家康が眉間の皺を深くする。昨夜も遅くまで起きていたのを知っていた家康は、そのまま廊下を回り桜姫の部屋へと向かった。
「桜姫様は、お仕事熱心でいらっしゃいますね」
「加減を知らないから、家康も心配だろうな…」
秀吉と三成は家康の背を見送りながら、桜姫の話をし御殿へと戻っていく。
桜姫の部屋の前まで行った家康はと言えば、中の様子を窺うかのように聞き耳を立てた。恋仲とはいえ、こんな時間に突然部屋に入るのは不躾過ぎる。万が一行燈を付けたまま寝てしまっているという事も考えられるし、声を掛けようかと迷う所だ。しかし、行燈を付けたまま寝ているという事は褥に入らずに転寝……と言う可能性もあり、それならば彼女を褥まで運んでやらなければならない。
そんな考え事をグルグルとしていると、部屋の中から「痛っ」と小さな声が聞こえた。どうやら起きているらしい。
「桜姫、起きてる?」
周りに迷惑にならないほどの声で外から声を掛けると驚いた様子の桜姫の声が聞こえた。
「家康?」
半信半疑なのか、小さな声で名前を呼んで少しだけ襖を開けた桜姫は、見慣れた羽織が見えて安心する。
「こんな時間にどうしたの?」
家康を部屋に招き入れながら桜姫は呑気な声をあげた。縫いかけの着物を手に取り、家康と話をしながらも手を動かす。
「どうしたのじゃないでしょ。あんたこそ、こんな時間まで何やってんの?」
怒りと心配の混じった声に桜姫の肩がピクリと跳ねた。
時計がないので詳しい時間は分からないが、外は真っ暗だし家康の様子からするとだいぶ遅い時間のようだ。あまり根を詰めすぎてはいけないと言われたばかりなのにやりすぎてしまった事を反省する。