第13章 【徳川家康】良薬口に苦し①
「家康、何か用事だった?」
「用事がなかったら、会いに来ちゃいけないの?」
「そんな事ないけど、最近忙しそうだったから……」
恋仲なのだから、いつでも会いたいに決まっていて、それは桜姫も家康も同じ思いであり、会いに来てくれたことは素直に嬉しかった。
桜姫の部屋に着くと、縫いかけの着物や反物がいくつも並べられていて、彼女も忙しく針子の仕事をしていたことが分かる。
「急ぎの仕事?」
「ううん、すごく急いでってわけじゃないけど、頼まれると早く作ってあげたいなって思って、つい……」
以前彼女に買ってやった裁縫箱を机の横に降ろしながら、苦笑いを浮かべる桜姫。いったいどれほどの仕事をしているのだろうかと思ってしまう。
「あんまり根詰めすぎないでよ。あんた、弱いんだから」
「家康だって、いつも忙しそうで心配」
「俺は、鍛え方が違うっていつも言ってるでしょ」
家康は、桜姫を自分の方へ引き寄せると胡坐をかいた脚の間に座らせた。嬉しそうにもたれ掛かってくる彼女の笑顔は最高の宝物だ。
しばしの時間家康と過ごした桜姫は、楽しい気分のまま夜を迎えた。昼間少し休んでしまった分を取り戻そうと、行燈の光の下で仕上げ途中だった着物を縫い始める。針子の仕事は楽しくてついつい時間を忘れて作業してしまう事が多かったが、何の苦とも思っていなかった。それ以上に出来上がった時の達成感が自分の意欲向上につながっていたのである。