第10章 Reincarnation 〜織田信長〜
「俺の動きを止めるとは、女と言えど容赦はせん、貴様もそこへなおれっ!」
侍は、ゆっくりと刀を下げたまま私の元へと近づいて来た。
「………あ、」
(この人、織田信長だ!)
実物なんか見た事はない。でも、直感でそう思った。
「……っ、貴様っ!」
冷ややかな目を向けて近づいて来た信長(多分)は、私と目が合うなり、そう言って目を見開いた。
(あ、この人の目、綺麗な紅〔あか〕だ)
斬られそうだと言うのに、私はその人の目の色の綺麗さに惹きつけられた。
「っ、空良っ!?」
「え?」
そう叫ぶと男の殺気は急にやわらぎ、私に腕を伸ばして来た。
「な、何っ!?」
「空良」
刀を振り上げて殺そうとしていた男とは思えない程優しい口調に変わると、伸ばした手で私を抱き寄せた。
「……っ」
そしてあり得ないけど、その腕の温もりを、何故か懐かしいと思った。
(空良って、確かあの恋文の相手の名前じゃ…私を、その人と間違えてるっ!?)
「あ、あの…」
自慢ではないけど、彼氏いない歴=年齢な私にとって、こんな突然な抱擁はかなりレベルが高く…
苦しい程の腕の強さに戸惑い口を開いた時、
「信長っ、死ねーーーっ!」
先程平伏していた男がナイフ?みたいな小さな刀を手に、こっちへと向かって来た。
「……っ!」
(殺されるっ!?)
余りの恐怖にただ震えて男が走って近づいてくるのを見ていると、
「阿保が、死ぬのは貴様だ」
冷ややかな声が頭の上から聞こえると、シュッ!と言う音と同時に風が私の前髪を揺らした。
(何!?)
「ぐあっ!」
次は男の叫びと共に、大量の血がドバッとその男の胸から吹き出した。
「……ひっ、」
(人が斬られたっ!?)
画面越しではないお芝居でもないその衝撃に、見たくないのに目が釘付けになってしまう….
「空良、貴様は見るな」
逞しい腕が私の頭を抱えてその視界を遮った。
「わ、私は空良じゃない」
(怖い…殺される!)
ガタガタと、体は全身で自分の恐怖を表現する。
タイムスリップに、佐助君と離れてしまった孤独感、そして目の前で人が斬られると言う恐怖の全てを短時間で経験し…
「空良っ!」
私は気絶した。