第12章 野生な彼〜直江兼続誕生日sp〜
「っ……、兼続さんの誕生日なのに、私を喜ばせてどうするんですか」
「本当の事だ。お前がそばに居れば何もいらない」
「……っ!」
(ダメだ、褒め殺しにされる)
「じ、じゃあせめて、美味しい物を今日は作りますね」
「また厨の天井を焦がす気か?」
「もう、今日は焦ませんっ!」
鉄鍋で炒め物をしている時に、勢い余って油を注ぎすぎてフランベ状態になり、春日山城の厨の天井を焦がしたのはつい先日の事、兼続さんはその事を持ち出し意地悪な笑みを浮かべた。
「謙信様の大切な城だ。もう焦がすなよ」
「だから大丈夫ですってば。…もう、昨日(犬)の兼続さんは可愛かったのに……」
「何か言ったか?」
「いいえ。元に戻って良かったです」
「残念そうだな。何なら今夜も犬になってやろうか?」
ペロンっと、イタズラな顔で兼続さんは私の頬を舐めた。
「っ、それは…心の臓に悪いのでもう大丈夫です」
(あんな、フェロモンも体力も素直さも全力投球で毎度来られたら、心臓が止まるか溶けて無くなる自信がある)
「それは残念だ」
優しく目を細めた兼続さんは私に熱い口づけを落とす。
「兼続さん、大好き」
「馬鹿、朝から煽るな」
プレゼントは買えなかったけど、ご飯は美味しく、天井も焦がす事なく作れて、無事に兼続さんのお祝いをする事ができた。
後日佐助君から聞いたところによると、私が薬をもらったと言う露店はどこにも見当たらず、そんな店を見た者も誰もいなかったらしい。
狐に摘まれたのか、幽霊だったのか、密偵だったのかは分からずじまいとなったけど、兼続さん犬化の話は暫くの間、謙信様の酒席で大盛り上がりとなったのは言うまでもない。