第1章 あなたと両思い 〜徳川家康〜
それぞれの思いは行き違い、会えないまま10日が過ぎた。
家康の羽織りを完成させたサラは、
家康の御殿へと向かうため、城下町を歩いていた。
(何て言って渡そう。ちゃんと、受け取ってくれるかな)
不安と緊張で心臓は爆発寸前で、自然と早足になる。
すると、前から急に人が飛び出してきた。
ドシンッ‼︎
勢いよくぶつかってしまい、
サラの手から羽織りを包んだ風呂敷が投げ出された。
「あっ!羽織りが!」
(その前に、ぶつかった人に謝らなくちゃ)
「ごめんなさい。私、急いでいて、
ちゃんと前を確認もせず」
慌てて謝り、ぶつかった人物を見ると、
小柄で可愛らしい女が、サラを睨みつけ立っていた。
「あの、ごめんなさい。どこか痛くしま....」
「あなたなんて、秀吉様に相応しくない!
秀吉様を返して!」
サラが言い終わるより先に女が口を開いた。
どうやら、先日の秀吉との逢瀬を見て、
サラを秀吉の恋仲と勘違いした女が、
嫉妬心からサラに近づいてきたようだった。
怒りを露わにする女を前に、
サラは恋仲のフリをした事を申し訳なく思い、
本当の事を告げようと口を開いた。
「あの......実は私....」
言いかけるよりも先に、女の手が振り上げられ、
サラに向かって勢いよく振り下ろされた。
(叩かれる!)
痛みを覚悟して目をつぶった.........が、痛みはやってこず、
その代わり
「この女に手を出すな!」
この10日間会いたくてたまらなかった大好きな人が、
女の手を掴み睨んでいた。