第1章 あなたと両思い 〜徳川家康〜
一方、家康は落ち込んでいた。
(俺は、サラが好きだ。)
正直初めは、弱くて面倒くさい女だと思ってた。
でも、弱いくせに正直でまっすぐなところや、
怖いくせに真正面から立ち向かう姿に、
気がつけば目が離せなくなっていた。
500年先の未来から来たと言うサラは、
安土の武将達全ての心を虜にしていたと言っても過言ではなく、
天邪鬼な自分が恋仲になれるとは思いもしないし、
それでいいと思っていた。
そう......。今朝までは。
今朝も、一日は普通に始まった。
廊下を歩いていると、向こうから早足でバタバタ歩いてくる人影が。
そんなのはこの屋敷内でサラしかいない。
「家康おはよう」
大きな声で挨拶してくるサラ。
「おはよう。
朝から大きな声出さないでくれる?
調子狂うから。」
久しぶりにサラに会えた嬉しさを隠すように通り過ぎようと思ったけど、今朝は違った。
やけに綺麗に着飾ったサラに心がざわついたからだ。
「どこか行くの?」
髪も、着物もめかし込んでいる事が丸わかりで、
いつもはそんなにしていない化粧も、
赤い紅が引き立って色白のサラの美しさを引き立てていた。
「秀吉さんに頼まれて、
町の女の子達の気持ちを鎮めるために
恋仲のふりをすることになって。」
サラはキラキラとした目で話す。
何だか気にくわない。
そんなにも、秀吉さんの恋仲のふりが、嬉しいの?
「ふーん。だからそんなにめかし込んで気合い入れてるんだ。
ふりなんて言ってるけど、
あんたも案外まんざらでもないんじゃないの?」
違う、こんな事が言いたいわけじゃない。
「....っ、そんなんじゃないよ!
秀吉さんにはお世話になってるし、
私でよければ役に立ちたいだけだよ。
それに私が好きなのは......」
目を潤ませ、サラが真っ直ぐに俺を見ていいかける。
「好きなのは?」
聞かずにはいられない。
もしかして、俺?
微かな期待が頭をよぎる。
「いっ家康に関係ない!
秀吉さんが待ってるから行くね。」
言葉を濁し、サラが逃げるように行こうとするから、
カッと頭に血が上った。