第5章 Happily ever after ③何度でも〜家康〜
「これがあんたが使ってた道具。」
「弓術って、弓の事なんですね。私が、弓術....できるんですか?」
「できるって程じゃないよ。あんたビックリする程素質ないから。」
「あっ、そうなんですね。............ってひどい。それ前にも言いました......よ...ね.....。あ......れ?」
(おかしいな。何でこんなこと。)
「そうだね。言ったね。」
家康が懐かしそうに微笑んだ。
(あっ、また笑った。)
サラがドキドキしていると、
「構えてみて。」
すーっと、家康がサラの後ろに立って、弓の構え方を教える。
「っ、はいっ。」
(どうしよう。近すぎて、ドキドキしすぎて集中できない)
背中越しにみてもサラの耳は真っ赤に染まり、困っているのが分かる。
(記憶失ってても可愛すぎでしょ、あんた。)
ちょっと、意地悪をしたくなった家康は、
「変な事考えずに、ちゃんと集中して。」
わざと吐息がかかるように、サラの耳元で囁いた。
「あっ...」
途端にサラの体から力が抜けて膝から崩れた。
「っ、サラ、大丈夫?」
慌ててサラを抱き起こそうとすると、
「だ、大丈夫です。自分で立てます。」
必死で立とうとするが、足に力が入らず、立ち上がることができない。
「家康さん、すみません。立てません。」
完全に真っ赤になって涙目で家康に訴えた。
(ぷっ、ほんとかわいすぎでしょ!)
「ごめん、あんたが病み上がりだって、忘れてた。ほら。」
本当は抱き抱えてあげたい気持ちを抑えて、サラに手を差し伸べ立ちがらせる。
まだ、足に力が入りきらないサラは、家康の胸元へとよろけた。
「あっ。」
その瞬間、ふわりと愛しいサラの匂いが家康の鼻をくすぐった。
「.......っ」
手に入れははずの愛しい人の匂いに、家康の平常心はギリギリだった。
(これ以上触れたら止められない)
胸元のサラを優しく離すと、
「ごめん。今日はここまでにしよう。」
そう言って、練習場から早足で去って行ってしまった。
「っえ?家康さん?」
その場に一人残されたサラは、家康が突然怒って行ってしまったと勘違いし、様々な感情で騒ぐ胸元を抑え、暫く立ち尽くした。