第5章 Happily ever after ③何度でも〜家康〜
次の日、家康はサラを中庭へと誘い出した。
「わぁ。素敵なお庭ですね。」
昨日の部屋同様、懐かしい気持ちにかられる。
「昨日より落ち着いたみたいだね。」
家康が尋ねると、
「あっ、はい。なんだか全体的に懐かしい気はします。」
戸惑うようにサラは答えた。
しばらくすると。ガサガサっと、茂みが動き、
鹿がサラに気づいて嬉しそうに駆けてきた。
「えっ?何?きゃー待ってー」
急にかけてきた鹿にビックリして、転びそうになり、
「っ、ホント危なっかしいね。何回やる気?」
家康がサラを抱き止めた。
「あっ、すみません。ビックリしてしまって。でも、可愛い。お庭で鹿を飼ってるんですか?」
「そう。ワサビっていうんだ。」
「ワサビ?ワサビって、家康さんが命名したんですか?」
「悪い?」
「ワサビ好きなんですか?」
「そうだけど。」
「辛いものが好きなんですか?」
「あんた、初めての時も同じ事聞いてたよ。ホント、変わらないね。」
家康が、笑いをこらえながら答える。
(あっ、笑った。)
「そうなんですね。すみません。思い出せなくて。」
申し訳なさそうに俯く。
「あんたを責めてるわけじゃない。それに、あんたにはそんな顔似合わない。」
家康の長い指がサラの顔を撫でた。
「っ........。」
(何だろう。ドキドキする。昨日会ったばかりなのに。)
「何赤くなってんの?」
「あ...の、すみません。あんまりこういうことに慣れてなくて。」
「こーいうことって?」
サラの顔を覗き込むように家康が尋ねる。
(顔近い。戦国武将ってみんなこんな感じなのかな。)
「昨日みたいに、だ、抱きしめられたりとか、今みたいに顔に触れられたりとか。」
「ふーん。あんたのいた時代ではしないの?」
「私のいた時代では、好きな人と言うか、お互いの思いが通い合った恋人同士ではないとそういう事はしないと、思います。」
「そうなんだ。でも、俺だってそうだよ。」
真剣な顔でサラを見つめながら言う。
「.....っ、そうなんですね。」
(どうしよう。やっぱりドキドキする。家康さんの端正な顔立ちのせいかな)
「次は弓術の練習場に行くよ。」
そう言って、家康はすたすたと歩き出した。