第5章 Happily ever after ③何度でも〜家康〜
「おっ、お待たせしました。」
小さな風呂敷包み一つを持ってサラが城門にやってきた。
「荷物それだけ?」
「はい。」
「貸して。」
サラの荷物を手から取る。
「あっ、自分で持てます。」
初めて御殿に来る日にも同じ様な会話をしたことを思い出す。
「変わってないねあんた。」
「えっ?」
「何にも。これはあんたが急に逃げ出さない様に人質だよ。」
困った様に俯く。
俺の事を忘れたのなら、また最初からやり直せばいい。俺がどれくらいあんたを思っているか、思い出させてあげる。
ねえサラ、俺はもう、あんたがいない時には戻れないんだから、記憶を無くしたくらいじゃ離さないよ。
「ここが俺の御殿。あんたは一時期この御殿に住んでたんだ。もしかしたら何か思い出すかもしれないから、しばらくはここで過ごしてもらうよ。」
「あの、ありがとうございます。家康さん。」
(家康さん......ね。)
「後で、あんたの部屋に夕餉を運ばせるから。一応病み上がりだし、今日は早く寝なよ。」
「......はい。」
軽くお辞儀をしてサラは女中に連れられて、部屋へと歩いて行った。
部屋に入ってサラはぺたりと座り込んだ。
「この部屋、なんか懐かしい気がする。」
懐かしさと、戸惑いが入り混じったまま、サラはその日は眠りについた。