第1章 あなたと両思い 〜徳川家康〜
秀吉さんからの頼み事とは、
秀吉さんと恋仲のふりをして、
城下町を一緒に歩いてほしいというものだった。
何でも、
城下町に住む町娘たちの
秀吉さん争奪戦が過激になりつつあるから、
自分には心に決めた恋仲の女性がいると思わせて、
彼女達を諦めさせたいらしい。
「安土一のモテ男も大変なんですね。」
感心したように私が言うと、
「バカ、そんなんじゃないよ。
モテる男ってのは、
本当に好きだと思った女から思われる男のことだ。
俺みたいなののことじゃない。」
軽く自虐的に秀吉さんが微笑む。
「秀吉さんを好きにならない女の子なんていませんよ。
秀吉さんに思われる女の人はきっと幸せです。
秀吉さんには思う人はいないんですか?
いるならその方にお願いしたほうがいい気が......。」
「いいんだよ。
妹みたいな存在であるお前との方が
自然と演じられるだろ?
何なら、これを機に本当の恋仲になったって
俺はいいんだぞ?」
秀吉さんがふわりと微笑む。
さすが安土一のモテ男。
「ふふっ、秀吉さんったら。
そんな事ばっかり言ってるから、
みんな本気にしちゃうんですよ。
分かりました。今回は引き受けますけど、
もうあまり思わせぶりな事、みんなにしちゃだめですよ。」
安土に来て、兄のように私を気にかけてくれた秀吉さんのため、
私はそう言って引き受けることにした。
「ほらな。おれはモテ男じゃあないだろ。」
サラには聞こえない声で、秀吉はぼそっと呟いた。
「えっ?何か言いました?」
サラは聞き返したが
「いやなんでもない。
じゃあ明日の朝餉の後頼むな。」
そう言って秀吉はサラの部屋を出で行った。