第3章 Happily ever after①君の欲しい物〜家康〜
御殿に帰ってからも、心は落ち着かなかった。
「っ、なんだってあんな嬉しそうに。」
(欲しいものはないって。いつも言っていたのに)
信長様に勝てないまでも、サラが望めば何だって与えてあげられるのに。
サラの欲しいものを自分ではなく、信長様から与えられるなんて。
悔しさと、裏切られた様な気持ちが俺の心を蝕んで行った。
「家康?入っていい?」
サラの声が襖の向こうから聞こえる。
御殿までの道のりを走ってきたのだろうか。
ハァハァと、軽い息切れが聞こえてくる。
「っ、折角だけど、今日は帰ってくれる。戦に備えてやる事が沢山あるから。」
サラの顔を見たら、感情のままに傷つけてしまいそうだ。
「えっ!でも今朝会った時に........。」
戸惑った声でサラは何かを言おうとしたが、
「ごめん.....なさい。お仕事頑張ってね。でも、無理しないでね。」
本当に言いたかった言葉を飲み込んで、俺を労った。
開けようとしていた襖から手を離し、去っていくサラの音が聞こえる。
「あぁ、くそ。」
もやもやした気持ちを引きずりながら立ち上がり、サラを追いかけた。