第12章 野生な彼〜直江兼続誕生日sp〜
「けっ、謙信様っ!?」
(兼続さんがそんな事するはず……)
と思ったのに、兼続さんは謙信様の出した手の平の上にサッと手を出して重ねた。
(兼続さんがお手してるっ!)
「兼続、回れ」
驚く私に構わず、謙信様は次の指示を出す。
そして兼続さんはその指示通りにクルクルとその場で回って見せた。
「面白れぇ、俺もやる。兼続、これ取ってこい」
幸村が乾いた筆を投げると、
「………」
兼続さんはツーンと、そっぽを向いて無視した。
「っなんだよ、犬になっても兼続かよ。可愛くなぇな」
どうやら謙信様の言う事しか聞かないらしい。
(兼続さん、何になろうと謙信様への忠誠心は絶対なんだな)
「よく分かった。サラ、兼続の面倒を見てやれ。そのうち薬も切れるであろう」
「は、はいっ!」
「佐助、その露店をすぐに取り締まれ」
「分かりました」
「サラ、兼続、後のことは心配せず療養するが良い」
「謙信様、ありがとうございます」
謙信様達が出て行き、私は犬になってしまった兼続さんの横に座って兼続さんの背中を撫でた。
「ごめんなさい。私のせいで」
半分涙目で兼続さんに謝ると、ベロンっと頬を舐められた。
「慰めてくれるんですか?」
今度は私の顔を頭ですりすりとして、そうだと伝えてくれた。
(優しい。犬になってしまっても兼続さんは兼続さんだ)
「どんな姿になっても私の気持ちは変わりません。兼続さん、大好きです」
ちゅっと、兼続さんに軽くキスをした。
「グゥッ」
兼続さんが、犬のように小さな唸り声を上げた。
「……ん?今の声、兼続さ…きゃっ!」
まるで本当の犬のような鳴き声に気を取られた途端、ドサっと、兼続さんの前脚…じゃなくて手が私の体を畳へ押し倒した。