第12章 野生な彼〜直江兼続誕生日sp〜
辛そうに横たわっていた兼続さんはムクリと起き上がったかと思うと四足歩行で部屋をウロウロとしだした。
「あの…兼続さん?」
呼び掛けるとこっちを振り返り、
駆け寄って来ると私の前で止まり、おすわりをした。
じーっと、何かを欲するように私を見つめて来る。
(もしかして、いい子いい子して欲しい?)
そのおすわり姿に、実家で飼っていた犬を思い出す。
「えっと…、ちゃんとおすわりできたね。いい子いい子」
もし”フリ”ならば凄いお仕置きをされるに違いないと思いながら兼続さんの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めて、私の頬に兼続さんの頬をすりすりと擦り付けて来た。
(ヤバい、兼続さんが可愛い)
そんな心の声を口に出すわけにはいかず、
「兼続さん、もう分かりましたから、そんなフリしなくても大丈夫ですよ」
兼続さんなりの冗談だと思っておすわりをする兼続さんの背中をポンポンっと撫でた。
……けれども、それから何分経っても兼続さんの犬化は続いた。
(もしかして本当に?)
ここまで来ると、本当にさっきの薬が効いたのではと思えて来た時、
「兼続いるか?」
謙信様の声が襖越しに聞こえた。
「兼続さんっ、謙信様がいらっしゃいましたよ」
ある意味天の助け?フリか本当かを見極めるチャンスが来たと思い、私は急いで襖を開けに行った。
「どうぞ」
謙信様と佐助君、そして幸村が入って来た。
兼続さんは謙信様を見ると四足歩行で走って謙信様へと近づき、サッと、その隣で伏せをした。
(さすが兼続さん、犬になっても謙信様への忠誠を忘れてないっ!)
「兼続、何のつもりだ?」
訝しげに兼続さんを見下ろす謙信様に対し、兼続さんは毅然とした顔で伏せの姿を崩さない。
これはもう決定だ。
(本当に、犬になっちゃったんだっ!?)
あの薬が本物で、兼続さんがフリをしているわけではないと(やっと)分かり、私は謙信様にその事をお伝えした。
「…なるほど、話は分かった」
謙信様はそう言うと立ち上がり手を前に出すと、
「兼続、お手」
兼続さんに向かってそう言った。