第12章 野生な彼〜直江兼続誕生日sp〜
「これを大好きな相手に飲ませれば、お嬢さんの言う事を何でも聞く犬の様に素直に絶対服従にさせることが出来ますぞ」
「えーっ、そんな薬があるんですか?」
店の主人の言葉に驚いたそぶりを見せてはみたが、何を隠そう私は500年先の未来からやって来た未来人。そんな薬が存在しないなんて事をはよーーーく知っている。
「せっかくですが、そんなすごい薬を頂く訳には行きませんから、お返しします」
詐欺でしょ!と言うわけにはいかず、私は笑顔でやんわりとお断りをした。
けれど、
「それはもうお嬢さんに差し上げた物、煮るなり焼くなり捨てるなり、好きになさって構いません。ですがお嬢さん、この世は信じた者勝ちですぞ?恋しい人の素直な姿が見たいのなら、信じてみては如何かな?」
ハハハハハッ!と、店主は軽快に笑うと、店の奥へと入って行ってしまい、薬を返し損じた私は結局その薬を手に、お城へと戻った。
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夕食の時間になり、部屋へ帰って来た兼続さんにその事を話すと、
「馬鹿馬鹿しい。そんな薬があるわけ無いだろう」
膳を挟んで向かい合わせに座る兼続さんは、呆れた顔で私から薬を受け取った。
「うっ…分かってはいたんですけど断れなくて……」
「子供じゃあるまいし、何でもかんでももらうのをやめろ」
「はい。すみません」
兼続さんはその薬の匂いを嗅いで、ぺろっと舐めた。
「あっ、舐めるだけでも相当な効果があるって……」
確か店主は、ひと舐めするだけでもかなりな作用が働くから取り扱いには気をつけてって言っていた気が……
「心配するな、これはただの葛粉だ」
兼続さんはそう言って、残りの錠剤を紙に包んで膳の上においた。
「葛粉?」
「ああ」
「じゃあやっぱり、揶揄われたんですね。私…」
(あまりに真面目な顔で言って来たから、少し信じそうになってたけどやっぱり嘘だったんだ)