第11章 いいこと探し 〜直江兼続〜
部屋へ戻ると、兼続さんは寝所に布団を敷いて私をそこに運んだ。
「サラ……」
横たわった私の額に手を当てて熱がないかを確認してくれる。
切長の目が不安定に揺れていて、彼の心の不安が見てとれた。
「兼続さん」
私も布団から手を伸ばして、彼の色素の薄い髪を撫でた。
「さっきは取り乱したりしてごめんなさい。でも私、この子を産みたいんです。兼続さんには迷惑をかけませんからお願いします」
一人で何も知らない中で子どもを産むことは不安だけど、決してあなたを困らせたいわけじゃない。
「……っ、そうじゃない」
「え?」
「お前は何も悪くない。…問題は俺にある。………俺は、親になる自信がない」
兼続さんの髪を撫でる私の手を掴んで、彼は苦しそうに言葉を吐き出した。
「……兼続さん?」
「お前に触れるとは、この腕に抱くとはいずれこうなるのだと頭では分かっていたはずなのに、…なのに止められなかった」
「それは…」
(やっぱり、子どもは欲しくないって…こと?)
苦しそうな面持ちの彼は更に言葉を続ける。
「お前をこの胸に抱くだけでも裁きが下されそうなほどの罪悪感に駆られたのに、子どもなど、俺のような者が父になどなって良いはずがない。いや、なれるはずがない!」
「っ、兼続さん…」
絞り出すように紡がれる彼の言葉を聞いて、私の心には反対に安堵が広がっていく。
兼続さんは私の妊娠を迷惑に思ってるわけじゃない。ただ、自分を責めているだけなのだと。
「兼続さんは本当に困った人ですね」
横になっている場合ではなくなり、私は体を半身起こして兼続さんに向き合った、
「っ、どう言う意味だ」
不安に揺れる藤色の目が私を鋭い視線で覗き込む。
「言葉通りの意味です。兵法や孟子をあんなに読んでるくせに分からないんですか?」
私の言葉に兼続さんは更に眉根を寄せる。
本当に困った、愛しい人。
「私は、あなたじゃなきゃダメなんです。過去に怯えるあなたも、今のあなたも、どんなあなたも愛してるんです。そんなあなたの子を授かった。私にとってそれはとても幸せで、大きな”いいこと”なんです」
あなたが気持ちを殺すことなく私を抱いてくれて、その証を授かった。こんな大きな”いいこと”他に探し出せない。