第11章 いいこと探し 〜直江兼続〜
「部屋に戻って話そう」
気づけば、廊下を歩く人たちが私たちのただならぬ雰囲気を察してチラチラと視線を投げている。
こんな状況なのに周囲の反応を気にする兼続さんに、私の我慢は限界を超えた。
「っ、これは兼続さんにとって人に聞かれて困るような話なんですかっ!」
「サラ…?」
「私とあなたの子どもの事は、そんなにも聞かれたくない話なんですか?」
感情の爆発と共に涙もブワッと溢れ出した。
「そりゃ私は兼続さんにとって足手まといで迷惑な存在かもしれないけど、欠陥だらけな人間だけど…」
「落ち着け…」
「嬉しかったのにっ」
「!」
「不安よりも何よりも最初に、あなたの子どもができたかもしれないって思って、私は嬉しかったのに」
(そうだよ、親も兄弟もいないし私の知ってる限りの現代の医学だってない中、子供を産むのは正直言って不安だけど、でも、私はとても嬉しかったのに、兼続さんは違うんだっ!)
そうかもしれないとはチラッと思ったけど、でも本人の口から直接言われて心が完全に打ちのめされた。
「サラ…」
「やっ!触らないでっ!」
伸ばされた手を私は思いっきり振り払った。
「サラ」
「嫌っ!兼続さんなんて……んっ!」
再び伸びて来たしなやかな手をもう一度振り払う事はできず、反対に手首を掴まれ引き寄せられ、唇が重なった。
「ん、やっ、こんな事で…ん、ごまかされな…んぅ……」
噛み付くような彼のキスは、あっという間に私の力を奪っていく。
「やっ……っ、」
ガクリと膝から崩れ落ちる前に、ふわりと体が宙に浮いた。
「……っ、兼続さん……?」
「もう黙れ、部屋へ戻る。俺に掴まってろ」
「……っ、……はい」
人目を憚らず兼続さんが明るい時間からキスすることも抱き上げてくれることもとても珍しくて…、複雑な思いを抱えながらも、ドキドキと私の胸は正直に喜びを刻み始めた。