第11章 いいこと探し 〜直江兼続〜
「あの…」
「お前も早く食べろ」
言葉を催促する間も無くピシャリと遮られた。
「…はい」
気落ちした心に更に悪阻が襲ってくる。
(っ、本当に気持ち悪い)
兼続さんの視線を感じる。
話しかければ冷たい態度をとるくせに、きっと心配した表情をしてるんだと分かる。
心配させたいわけじゃない私は勢いよくおかずを口に運んでご飯を掻き込んだ。
「……ぐっ、うぅ………無理っ!……っ、ごめんなさいっ!」
「サラっ!」
堪え切れなくなった私は立ち上がって厠へと急いだ。
何も出てこない胃を更に搾り出すように、気持ち悪さ全てを吐き出した私は、湯呑みの水で口を濯ぎ、幾分かすっきりとした気持ちで廊下へと出た。
「うっ、まぶしっ!」
暗がりにある厠から出た廊下に突然差し込んで来た日の光に目が眩み、眩暈に襲われた。
「…ぁっ、」
嘔吐したばかりでふらふらな体はそのまま抵抗する事なく倒れていく。
廊下に叩きつけられるのだと痛みを覚悟して目を瞑った時、グイッと腕を引かれて抱き止められた。
「……っ、兼続さん」
「大丈夫か?」
切長の藤色の目が私を心配そうに見つめる。
「…ぁ、すみません。ありがとうございます」
(心配して来てくれたんだ)
心は一瞬温かくなったけど…
「子どもは、諦めろ」
「……え?」
その言葉で一気に氷点下へと突き落とされ、心臓はドクンっと嫌な音を立てた。
「どう…して?」
「…俺が、耐えらそうにない」
「…っ、それは、どう言う意味ですか?」
(耐えられないって…そんなにも迷惑だって事!?)
兼続さんの言葉だと信じたくなくて、私は彼の腕を掴んで縋るように視線を送る。
「言葉通りの意味だ。お前一人でも持て余すのに子どもなど…」
「………っ、それは…」
子供はいらないって事?
どんなに視線を合わせようとしても、兼続さんは目を逸らしたまま私を見てはくれない。