第11章 いいこと探し 〜直江兼続〜
はずだったのに…
・・・・・・・・・・
「………あれ?」
気づけば朝で、自分の布団の中……
「私…寝ちゃったんだ」
なんたる失態!
でも悪阻のせいなのか眠気に勝てないのも事実だ。
慌てて支度を済ませて隣の部屋へと急いだ。
「兼続さん!」
「起きたのか」
「…ぁ、おはようございます」
「おはよう」
「あの…布団に運んでもらって、ありがとうございます」
「いつもの事だ。気にするな」
(よかった。ちゃんと普通だ..)
まだ部屋にいてくれた事、挨拶を返してくれた事に胸を撫で下ろしていると、私たち二人分の朝餉が運ばれて来た。
「美味しそう。これだけでもいいこと一つありましたね」
「そうだな」
優しく笑って答えてくれる兼続さんに、どうして部屋を分けたのかとか、妊娠しているって言われた事とか、聞きたいことも話したい事もたくさんあるけど…
「食べましょうか」
昨日から続く不穏な空気をこれ以上悪化させたくなくて、元気に笑って見せた。
膳を挟んで向き合って座ると、手を合わせて朝餉を食べ始める。
(うっ、ご飯の匂いが気持ち悪い)
日毎にキツくなるこの匂いに、気持ち悪さが一気に込み上げる。
「どうした?」
口に手を当て吐き気を堪える私に彼は心配そうに声をかける。
「あ、いえ何でも、……なくはないです」
(やっぱりこのままではダメ。ちゃんと話さないと)
「相変わらずおかしな言葉を使う」
ふっと優しく笑う彼に、気持ちは一瞬怯むけど、私は言葉を続けた。
「私、昨日あの後医師に診てもらったんです。…懐妊だと…言われました」
「………」
綺麗な紫の目が大きく見開かれるのをじっと見つめていると、その目は私の視線から逃げた。
「……そうか」
兼続さんはそれだけ言うと再びお箸を手に取りまたご飯を食べ始めた。