第10章 Reincarnation 〜織田信長〜
『…信長様、おはようございます』
目覚めれば、いつも腕の中には愛しい温もりがあった。
『空良…』
抱きしめる腕の力を少し緩めて愛しい者の顔を覗き見れば、泣き腫らした顔で俺を優しく見つめる空良。
ああ…これは、奴と京に滞在した折、様々な事が上手くいかず激情のままに奴をひどく抱いた次の朝だ。
そして、空良と迎えた最後の朝であった。
『信長様......』
『どうした?』
『信長様にお伝えしたい事があります』
『何だ?もったいぶらずに今話せばいいものを』
『ふふっ、夜までのお楽しみにしてて下さい。でも、どんな話でも驚かないで下さいね?』
俺の腕の中で照れ臭そうにはにかんだ奴は、恐らく腹の子の事を俺に話そうとしていたのだろう。
『ふんっ、焦らしおって、......だがよかろう、夜まで待ってやる』
なぜこの時聞いておかなかったのか…
いや、聞かなかったのではない。聞けなかったのだ。
ひどい抱き方をした俺を責める事なく愛らしい顔を向ける空良に心が痛み、それを誤魔化すように奴を抱きしめ口づけをして、その場をやり過ごした。
奴はそのすぐ後、足利義昭に捕まり、助け出した時には大量の血と涙を流して、俺の腕の中で息を引き取った。
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「…………っ、夢か…」
久しく見なかった奴の夢…
『信長様…愛しています……』
守れなかった最愛の女は、それでも死に際に俺に愛を囁きながら息絶えた。
あの後の事は良く覚えていない。
ただはっきりしているのは、最愛の者を失っても涙を流さなかった俺の心は、あの日、空良と共に死んだと言う事。
日ノ本は統一する。
だがもうやり方は選ばぬ!
空良を死に追いやった者、侮辱したものがいる領地や大名に遠慮する事はない。奴らを全て排除して、この日ノ本を統べてやる。
迷いは微塵も無い。俺の所業を悲しむ者はもういない。中国地方の大名を片付けさえすれば、天下布武は無し得る。あと少し、あと一押しだ。
だが、数日前に來良が俺の前に現れた。