第10章 Reincarnation 〜織田信長〜
「勘違いするな、貴様は…空良ではない、奴の生まれ変わりにでもなったつもりか」
「……っ、それは…」
もう、言い返す言葉は出ない。
「興醒めだ。視察は取り止める」
優しく抱きしめてくれた腕は、今度は冷たく私を突き放す。
「信長様っ!」
「もう俺の前に姿を現すな」
今までで一番キツい一言を私に言うと、ひらりと馬に跨り信長様は行ってしまった。
「………っ、私の事を心配してくれたんじゃないの?命を狙われたばかりで不安なのに、ここに一人私を置いて行くの?私が空良だったら絶対に置いて帰ったりしないのに……」
少しでも信長様に近づけたと思った自分に突如突きつけられた拒絶……、
分かってる、私の目的は信長様と仲良くなる事じゃない。信長様が愛した女性の事と、二人の事を知りたかっただけ。
「……っ、でも、その恋人に似てるなんて聞いてない」
“生まれ変わりにでもなったつもりか?”って、信長様だってやっぱりそう思ってるんでしょ?口には出さないつもりでいたのに、相手に先に言われて心が大きく揺さぶられた。
実の所、空良の素性についてはまだ私は何も分かっていない。秀吉さんも、光秀さんも、その他に話を聞いた従者の方々も、皆空良の事を信長様の最愛の人で唯一無二の存在だと教えてくれたけれど、彼女の素性には誰も触れなかった。
二人は身分違いの恋をした。
毎晩見る夢から何となく分かった二人の関係性は、身分が大きく違う事。
その事に戸惑い身をひこうとする彼女に対して、ぐいぐいと距離を詰めて逃がさない信長様の態度が、まるで私に向けられているような気がして…信長様に会う度に高鳴る鼓動は、私のものなのか、それとも空良の感情が流れ込んでそう思うのか、いずれにせよ、私の心にはあってはならない感情が芽生え始めていて、私はそれを必死に押さえつけていた。