第10章 Reincarnation 〜織田信長〜
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「信長様、おはようございます。朝餉をお持ちしました」
「來良貴様、まだおったのか」
「もう、そのセリフ、明日の朝も言う気ですか?」
五百年前の本能寺にタイムスリップして四日目の朝、すっかり定番となった朝のやりとりに私は嫌味で返す。
「なんだ貴様、明日もまだここに居座るつもりか?貴様の言う歴史学とは、随分ゆったりとした甘っちょろい学問だな」
ニヤリと口角を上げ嫌味を嫌味で返す信長様に、私は不覚にもドキッとしてしまう。
「っ、明日もいます。史実をちゃんと後世に伝えるのが私の使命ですから」
「そうか、…で、今朝はどんな夢を見た?」
「今朝は…あ、先に膳を置きますね」
信長様の前に朝食の膳を置いて、私も近くに座った。
「えっと、今朝は…、安土城を出発して船に乗って、それで船酔いをした夢でした。初めての船で嬉しかったのに船酔いしてしまって、しかも船を降りた後は、信長様とは別行動になってしまって悲しくて…」
「………京に、向かった時だな」
淡々と話す私とは違い、信長様は辛そうに口を開いた。
本能寺に来て意識を失った時にビワの夢を見た様に、私は毎夜、空良の夢を見るようになっていた。
最初の夜は、二人が出会った日の夢だった。この本能寺で二人がどのように出会い、言葉を交わしたのか……、あまりにリアルで次の日に信長様に話したら、顔がみるみるうちに強張り一瞬緊張が走ったけれど、「…そうか」と一言いい、「今日は貴様と話す事はない、出て行け」と言われてその日は終わってしまった。
そしてその夜も、次の日も、そして昨日の夜も、私は空良の夢を見続け、毎朝信長様に確認をする意味で伝えるようになった。
空良によく似ているらしい私が、空良の夢を見る。その現象に私の中では一つの仮説が浮かんでいるけれど、これは言葉に出してはいけない気がしていた。
信長様は、大抵の質問には答えてくれるけれども、肝心の空良の核心には触れさせてはくれなかった。けれども、夢は確実に二人の歩んだ時を私に見せてくる。出会った頃の事、敵同士なのに恋に落ちてしまった頃の事、恋仲になった頃の事…
そしてそれを信長様に確認するように私は伝え、信長様はいつもひと言二言呟いて黙ってしまう。