ロミオとジュリエットは何故不幸になったのか【エルヴィン】
第10章 香水
「ど、どうしました!?その容器・・・
気に入りませんでしたか?」
恐る恐る尋ねるとエルヴィンさんはハッとしたように
顔を上げ「違うんだ」と否定した。
「その・・・今まで遺品を届けた先では
罵倒されるのが当たり前で、お礼を言われた事など
無かったものだから・・・自分は今夢を
見ているのではないかと柄にもなく
思ってしまってね・・・」
弱々しく笑うエルヴィンさんを見て、胸が痛む。
一体どれだけの遺品を届け、その先で
罵倒されてきたのだろうか?
遺族が生き残った兵士やその組織の最高責任者に
やり場のない怒りや悲しみ、不平不満を
ぶつけてしまう気持ちも理解出来る。
だが、彼らだって命からがら生き残って、
悲しみながら仲間の遺品を整理して、
複雑な想いを抱きながらそれを遺族に届けるのだ。
辛くないはずが無い。
私には想像しか出来ない世界だけれど、
少なくとも私はエルヴィンさんに否定的な言葉を
投げつけたくなかった。
「本当にありがとうございます、エルヴィンさん。
私は貴方のお蔭で心が救われましたよ」
私がそう言った瞬間、エルヴィンさんは
今までにないくらい綺麗に笑って
「これは・・・俺にとって初めて出来た『宝物』だな」
と、愛おしそうに容器を撫で、消え入りそうな声で
「ありがとう」と呟いた。
その姿を見て、エルヴィンさんは自覚が無いようだけれど
とても心に傷を負っているように感じた。
私にそれが癒せるとは思わないけど、話し相手になって
彼の心に寄り添えたら良いなと心から思うと同時に、
それはきっと叶わないだろうなとも感じている。